たまひよ

関東近県に住む上杉彩香さんは、夫と4歳の女の子、2歳の男の子を育てる母親です。第2子の玲陽(れお)くんは先天性小腸閉鎖症という病気のために、生まれてから現在までに何回もの手術を乗り越えてきました。看護師として働きながら子育てする彩香さんに、玲陽くんの妊娠中から出産後すぐの治療のことなどについて聞きました。全2回のインタビューの前編です。


エコー検査で赤ちゃんに先天性の病気が発覚



看護師として消化器外科、脳外科、泌尿器科などで働いてきた彩香さん。長女を授かった1年後に、第2子を妊娠します。長女と同じ産科クリニックで妊婦健診を受けていましたが、妊娠20週のころにエコー検査で赤ちゃんに異常が見つかりました。

「エコーで赤ちゃんのおなかがうまく映らなかったんです。翌週再び診察してもらうと『やはり小腸がうまく映らない。狭窄(きょうさく)している可能性がある』と、大きな総合病院を紹介されました。紹介先の胎児スクリーニング外来で診てもらった結果、小腸閉鎖症の可能性が高いとのことでした」(彩香さん)

赤ちゃんに先天性の病気があることがわかり、総合病院で出産することになった彩香さん。「小腸閉鎖症」と聞いて「不安ばかりだった」と言います。

「まさか自分の子どもが病気をもって生まれてくるなんて、思ってもいませんでした。看護師としての経験から『小腸閉鎖症』なら絶対に手術が必要になるはずとわかりました。小さな体で手術に耐えられるのか、もし助からなかったらどうしよう、などと悪いことばかりを先回りして考えてしまいました。

ネットで調べてみると治療したあとの成長についての情報はほとんど見つかりません。先生は『手術をすれば大丈夫』と言ってくれたし、私も『一緒に頑張ろう』と思いつつも、先が見えないことがとても怖かったです」(彩香さん)


赤ちゃんがおなかの中で吐いて、羊水が緑色に




2023年5月、彩香さんは胎児の状態を詳しく調べるためのMRI検査や、おなかに針を刺して羊水を採取する羊水穿刺(せんし)の検査を受けました。

「先天性小腸閉鎖症は赤ちゃんの小腸の一部が詰まったり狭くなったりするために、おなかの中で赤ちゃんが吐いてしまうことがあります。羊水穿刺で採取した羊水は胆汁の緑色をしていて、赤ちゃんが胎内で吐いていることがわかりました。

赤ちゃんが胎内で吐くと、吐いたものに含まれる消化酵素が臍帯を溶かしてしまう“臍帯潰瘍(さいたいかいよう)”を起こすリスクがあり、へその緒が溶けて大出血を起こしたり、胎盤を損傷して母子ともに助からないこともあるそうです。
また、羊水穿刺の影響で陣痛が起こる可能性があるとのことで、妊娠31週ごろから入院して張り止めの点滴を受けることになりました」(彩香さん)

張り止めの点滴の副作用が強く、彩香さんは入院中ずっと体調が悪い状態が続きました。できるだけ赤ちゃんをおなかの中で育てるために安静にしていましたが、検査の結果、羊水内の消化酵素の数値が高いために妊娠33週になる5月下旬に出産することになりました。

「私は経産婦なので陣痛誘発剤を使用して計画的な経腟分娩の予定だったのですが、予定した日の前日に赤ちゃんの心拍が一時的に落ちてしまったため、その日のうちに帝王切開で出産することになりました。

出産したときのことは、麻酔の影響でぼんやりしていてあまり覚えていません。生まれてすぐ、赤ちゃんは処置のためにNICU(新生児集中治療室)に運ばれました。体重1866g、身長45cmだと聞きました」(彩香さん)

生まれた赤ちゃんは先天性小腸閉鎖症によって小腸が途中でつまっているために、小腸の入り口付近が太くふくらんでいるような状態でした。

「赤ちゃんは、出生直後に『イレウス管挿入』といって、鼻から入れた管を小腸まで挿入して、太くなった腸管の内容物を吸引し、減圧する処置を受ける必要がありました。生まれてすぐにその処置が行なわれたのですが、赤ちゃんの体温が下がってしまったりしてかなり時間がかかったそうです。13時ごろに出産して、赤ちゃんの処置が終わったのは夜の21時ごろ。主治医の先生はそのあとに赤ちゃんの状態についてていねいに説明してくれました」(彩香さん)


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