たまひよ

生まれた直後の赤ちゃんの体には血液や胎便(たいべん)などがついているので、清潔にする必要があります。その方法には、汚れは落とすけれど胎脂(たいし)は残すドライテクニックと、赤ちゃんを湯に入れて汚れを洗い流す沐浴(もくよく)があり、やり方は施設によってバラバラなのだとか。赤ちゃんのスキンケアと皮膚の状態について研究している、大分県立看護科学大学准教授の樋口幸先生に、出産入院中の赤ちゃんの体を清潔にする方法の移り変わりと、今の課題について聞きました。


ドライテクニックを行う産院が増えているけれど、やり方は産院ごとに違う


――ドライテクニックとはどのような方法ですか。

樋口先生(以下敬称略) 産まれた直後の赤ちゃんの皮膚についた、血液などの汚れだけをふき取り、胎脂は残しておく方法です。
胎脂には、赤ちゃんを病原体や寒さなどから守るはたらきや、保湿剤のように赤ちゃんの皮膚を保護するはたらきがあります。つまり、赤ちゃんを外敵から守ってくれるとても大事なものなんです。
沐浴だと血液などの汚れだけでなく、胎脂も落としてしまいますが、ドライテクニックなら胎脂を残すことができます。

また、WHO(世界保健機関)が1989年に出した母乳育児成功のための10カ条の中に、「分娩30分以内に母乳を飲ませられるように援助する」があります。生まれてすぐに沐浴をすると赤ちゃんが疲れ、授乳する前に寝てしまうことが多いのですが、ドライテクニックなら授乳がしやすくなります。

このように、ドライテクニックにはメリットがあることから、日本では2000年以降にドライテクニックを行う施設が増えてきました。私たちが全国調査を行った2013年~2014年時点では、出生直後は何もしない、あるいはドライテクニックを採用する施設が半数以上を占め、生まれた翌日に沐浴を行う施設が多かったです。

――生まれたばかりの赤ちゃんを清潔にする方法に、ルールやガイドラインはないのでしょうか。

樋口 2011年に日本産婦人科学会は、正期産で問題なく生まれた赤ちゃんに沐浴を始める時期について、「呼吸などが落ち着く生後6時間以降とする」という提言を出しました。
さらにその翌年、日本未熟児新生児学会が正期産の赤ちゃんの沐浴開始時期や頻度について、日本産婦人科学会の提言に加え、「できれば生後2~3日以降に行う。連日の沐浴は赤ちゃんが疲れてしまうので避けるのが望ましい」と提言しています。

でも日本では、出産直後の沐浴・ドライテクニックのやり方について示すガイドラインはないんです。そのため、私たちが行った全国調査の結果を分類したら、生後5日までの赤ちゃんを清潔にする方法は、なんと86パターンにもなりました。
ドライテクニックを行うのか、行う場合何日間か、沐浴はいつから行うのか、沐浴のとき洗浄剤を使うのか使わないのか、沐浴後の保湿はどうするのかなどのことは、各施設が独自の判断で行っていることが、この数字からわかります。


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